桜の樹の下には死体が埋まっている! これは信じていいことなんだよ。
「檸檬」で有名な作家、梶井基次郎の小品「桜の樹の下には」を思い出した。本格的な冬の寒さをあまり感じぬまま迎えてしまった春。環境破壊による地球温暖化の影響ではないのか、などと心配する声をよそに、今年も日本の桜は咲き出した。
梶井流に言えば、桜の樹の下には灼熱の太陽のかけらが埋まっている。その熱が、根から幹、枝を伝い、花びら一枚一枚をピンク色に上気させる。咲き始めの清楚な花は、満開に近付くにつれ姿を変える。マリーローランサンの絵からルノワールの絵のように。そしてあっけない花吹雪。次に生い茂る緑の葉を見届け、太陽のかけらは静かに翌春までの休息に入る。夏の太陽に活躍の場を譲るために。
梶井を愛読していた学生時代、そんなことを考えたこともあった。大人も半ばを過ぎた昨今、死体も太陽のかけらも忘れていた。今朝、通勤電車の中から沿線の桜の花が、突然思い出させたのだ。今年の桜は、開花が早いという。温暖化も環境破壊も心配だ。一方で、そんな中でも桜は季節を忘れていないのだ、と安心もする。
満開はもうすぐだろう。そうしたら、すぐに花吹雪だ「世の中に絶えて桜のなかりせば春の心はのどけからまし」
美しい桜を見られれば十分。諸行無常の世界にいるのだから。「散ればこそいとど桜はめでたけれ憂き世になにか久しかるべき」
みなさんは、いかがでしょうか?(S)